汐止濟德宮

台北駅から北向きの電車に乗り、4つ目の駅になる汐止。その汐止でもっとも古い廟といわれているのが濟德宮です。この廟は2017年に台湾で放送された人気ドラマ『通靈少女』のロケ地として有名になりました。

濟德宮は18世紀から19世紀に移り変わる清朝の嘉慶年間のころの創建だと言われています。しかし1935年、台湾総督府により廟の土地を強制的に接収され、他の場所へ移動することになりました。これは台湾総督府が行っていた寺廟整理という名の宗教弾圧の一環でしょう。

戦後1946年、濟德宮は元あった場所の正面の土地に再建されました。

濟德宮は通称汐止媽祖廟。天上聖母媽祖を主祭神とします。

右側には清水祖師。清水祖師はこの廟の創建時より媽祖とともに祀られていたといわれます。

清水祖師は北宋代に実在した普足和尚という禅僧です。普足和尚は生前安渓鉄観音で有名な福建の安渓は蓬莱山張巖に庵を結び、清水が湧き出て絶えないその場所を清水巌という名に改めました。架橋や道路整備などといったインフラ整備に努め、病人に薬を与えるなど今で言う福祉にも力を入れました。また、雨乞いの力もあったとされ、雨を呼んでは農民を救ったといいます。そうした功績により地域住民に慕われた和尚は、仏僧であるにもかかわらず逝去後には地域の人々によって清水巌にちなんで清水祖師という神様として祀られるようになりました。

その後、安渓の人が台湾に移住するのに伴い、清水祖師の信仰も台湾に伝えられています。清水祖師が主祭神となる廟としては台北の艋舺清水巌祖師廟、淡水の淡水清水巖祖師廟などが有名です。

左側には城隍。城隍が媽祖の横に配されるのは珍しいと思います。

本来千里眼将軍と順風耳将軍が守るべき左右を、見たこともない神様が守っていました。特にピンクの「桃将軍」が怪しい。

調べたところ桃將軍順風耳と柳將軍千里眼だとのこと。一応千里眼と順風耳ではあるようです。しかし順風耳がなんでこんなピンクにされてしまったのかはわかりませんでした。

2017年に放送されたドラマ『通靈少女』は、実在の霊能者である劉柏君さんの実話を元につくられました。劉柏君さんは実際に霊媒として働いた後その経験を本にした作家であり、女性としては台湾で初めてのプロの野球審判員であり、通訳であり、そしてイスラームに改宗してイスラーム名がサフィーヤさんでもあるといういろいろ複雑な人です。

このドラマを作るにあたり、制作陣はいろんな廟にロケの打診をしていったところことごとく断られ、やっとロケの承諾をしてくれたのが濟德宮でした。しかし、監督が天上聖母にお許しを得ようとして擲筊をしても同意を得られませんでした。擲筊というのは台湾の廟で行われている三日月型の筊(ポエ)を投げ、裏と表一つづつになると神様から同意を得られたとする占いのことです。

困った制作陣が劉柏君さんに依頼すると、やっと裏と表が出る「聖筊」となり、やっと撮影をスタートさせることができたといいます。

この広間がドラマでよく使われていました。

正殿の後はその横の武英殿に入ります。

まずは芸能神である西秦王爺。

次に太歳星君。ここでは六十太歳神が斗燈になっていました。斗燈というのは筒状の器に米を満たし、灯り(現在はだいたい電灯)、剣、ものさし、ハサミ、天秤、鏡などを刺した祭具です。

次に安産の神様註生娘娘と、妊娠から出産までの各段階を手助けする十二婆姐。

最後に地蔵王菩薩。横の位牌はこの廟を建てたご先祖のものでしょう。

『通靈少女』人気で参拝者が増えた濟德宮は、台湾総督府に奪われたもとの場所へ戻ることを計画していると報じられています。この元の場所への遷座は濟德宮の悲願であり、資金難で実現できなかったことだとのことなのでぜひ実現してもらいたいものです。