艋舺有應公廟

2019年の11月に、萬華の南の方でちょっと道にまよってうろうろしていたときに見つけた廟です。

この時期は、2020年の台湾総統選、立法委員選の直前にあたり、各所に立候補者ののぼりなどが立っていました。

この廟は、萬華を地盤とする立法委員で、台湾独立指向を闡明にしている林昶佐氏、ロックバンド閃靈のボーカル・フレディ林を支持しているようです。

有應公は台湾の孤魂信仰と関係が深いです。

これはもともと道教よりも儒教寄りの信仰です。

儒教は、中国古代の死生観、先祖祭祀から生まれた宗教です。

人は死ぬと肉体と魂が分かれます。肉体を棺に保存し、魂を位牌にとどめて子孫が祀れば、いずれ魂は肉体に還り、生き返るというのが儒教の祭祀の根本です。

本来祀られなかった魂は滅びるものでした。ところが福建や広東など中国北方では、戦乱、病気などで死んだ人で、祀る子孫がいない魂は「孤魂」となり、いずれ悪霊となるという民間信仰が生まれました。それが、移民とともに台湾にも伝えられています。

孤魂=日本で言う無縁仏を、悪霊とならないように神として祀るようになったのが、有應公です。他に、聖公、大眾爺とも呼ばれます。

こういう孤魂を祀った廟を陰廟といいます。

台南の鎮安堂飛虎将軍廟は、米軍機に撃墜され台南に墜落して散華された日本兵を祀る廟で、日本では村に落ちるのを避けるためにギリギリまで飛行機を操り、無人のところに墜落したのを感謝するためなどと解釈されていますが、実際のところ廟の成り立ちを見ると明らかに孤魂信仰のもと、亡くなった日本兵が悪霊になるのを避けるために建てられたものです。

台湾の信仰を見る時、この孤魂信仰を理解していないと変な勘違いをすることになるでしょう。

有應公は個人ではなく、孤魂をひとまとめに祀るためか、こうした位牌になっていることが多いです。ただし時に神像が置かれていることもあります。

有應公の廟には福徳正神が祀られていることも多いです。

台湾では、有應公は祭祀を受けると福徳正神に昇格するとも考えられているようです。

こちらはおそらく文財神。

日本で元は祟り神として祀られた神様が、その後願いを叶えてくれるご利益をもつようになるのと同様、有應公も願い事に応じてくれるという側面もあり、そこから財をもたらす財神も祀られることになったのかもしれません。