艋舺龍山寺は1738年創建。台北市内で最も古い道教廟だと言われており、台北の「三大廟門」の一つです。
主祭神は「観音仏祖」。道教では多かれ少なかれ仏教や儒教を習合している部分がありますが、台湾に福建や広東からの移民とともに伝わった南方系道教及び民間信仰には、観音菩薩や地蔵菩薩などが神として取り入れられて信仰されており、特に観音菩薩は人気です。
では、龍山寺と仏教寺院とはどこが違うかというと、まず本来の「仏祖」たる釈迦如来は扱いが小さく、なぜか菩薩である観音が「仏祖」と呼ばれていること、そして、他の道教の神々も祀られているということです。
とはいえ、台湾の人々は自分たちが拝んでいる神、もしくは菩薩が仏教のものであるとか道教のものであるとかはあまり気にしていません。この点は、仏教も神道もあまり区別せずに拝んでいる大部分の日本人と大差ないでしょう。ただ、信仰心の厚さという点では、日本人はとても台湾人にはかないません。
道教廟の見どころの一つは、いたるところにある彫刻です。特に屋根の部分は龍や鳳凰などのカラフルな彫刻が設えられていることが多いです。
道教の廟に行ったら、頭上を見上げてみることをおすすめします。道教の廟では梁に絵が描いてあったり、天人の彫刻があったり、扁額がかけられてあったり、いちいち観察していると見飽きることがありません。
この滝は浄心瀑布と呼ばれるもの。水の流れによって心を清めるという意味があるようです。
日本の禊の影響だなどと変な誤解をする人がいるかもしれないので記しておきますが、水で禊をするという思想はもともと中国にあったもので、それが日本や台湾にも伝わりました。
神様は君主と同様南面するものであるということで、もちろん例外はあるものの、基本的には道教の廟というものは南向きに建てられています。龍山寺も南向きです。道教廟には東の龍門から入って、西の虎門から出るという決まりがありますから、入り口は向かって右側です。
龍山寺の場合この入口を入ると売店があり、無料線香をもらえます。かつて龍山寺には炉が7つあって、線香に火をつけるための場所の奥で7本もらうようになっていました。その後、台湾経済が不況になって収入が減ったのか、7本の線香のセットを10NTDで販売するようになりました。
それが不評だったのかどうか知りませんが、その後、香炉は主炉・天公炉・後殿中央の炉の3箇所だけに減らされて、そのかわり無料線香も復活しました。
さらにその後、特に台北では線香の煙による空気汚染が問題となり、現在では線香の使用数や香炉を減らすという動きが活発になっています。行天宮では、いち早く香炉を廃止し、手を合わせて拝むだけという方針に切り替えました。龍山寺もこの流れに従い、主炉を残してあとの2箇所の香炉は封じられています。現在では売店で1本だけ線香をもらい、主炉に捧げてからお参りするというスタイルになっています。
ただし、中には線香を持って全体をお参りしてから主炉に戻って挿すという人も見られます。
※追記:その後全ての香炉が廃止されました。
観音仏祖が祀られる正殿。
浄心瀑布の向かい側には鯉が水を噴く噴水があります。ここは池になっており、ティラピアなどがいます。
龍山寺のような広い廟にはたいてい正殿の後ろに後殿があります。
龍門を入った部分の拝殿を三川殿(前殿)といい、中央に正殿があり、さらに後殿がある建築様式を三殿式と言います。
龍山寺後殿の中央に祀られているのが、台湾で最も人気がある神様の一柱である天上聖母=媽祖です。後殿には他に、学問の神様文昌帝君、安産の神様註生娘娘、商売の神様関聖帝君、縁結びの神様月下老人など人気の神様が並んでいます。
月下老人というのはいわゆる「運命の赤い糸」伝説の元になった神様で、良縁を求める人は赤い糸をいただいていくことができます。
龍山寺は夜の10時まで開いているので、暗くなってからも仕事帰りの人、夜市に行く途中の人、夜市から帰りの人などの参拝が絶えません。薄暗くライトアップされた夜の龍山寺には、昼間とは違う美しさがあります。
これは本殿の天井。大きめの廟の天井はこのようなドーム状になっていることが多いです。
廟の壁面には東側に龍、西側に虎の絵や彫刻などが置かれています。これは四神から来ていて、東側が青龍、西側が白虎にあたるためです。龍山寺の龍虎は交趾陶で作られています。交趾陶といってもベトナムのものではなく、もともと中国南部の焼き物だったものが19世紀ごろに台湾に伝えられたものです。
龍山寺の正殿外壁にはこのような石刻も貼り付けられています。これは夜には見にくいので昼間に鑑賞するのがおすすめです。
龍山寺が道教の廟であるという所以の一つがこの天公炉の存在。これは天帝、つまり玉皇大帝に向かって礼拝するためのものです。ただし2017年以降天公炉は封炉となっています。
龍山寺はMRT龍山寺駅から徒歩5分ほど。夜になると入口前に伸びる広州街の西側に艋舺夜市が開きます。