彰化南天宮

台湾中部の都市彰化には八卦山という小高い山があり、そこには大仏が安置されています。その八卦山のふもとにあるのが南天宮です。ここは廟そのものよりも付設の十八地獄で有名です。

南天宮に行くのに先立ち、行き方をネットで調べると、ここを訪れた日本人が書いた記事がいくつか見つかりました。

しかし、道教や中国仏教などの知識がないままに、単なるチープなアトラクションとしてしか捉えていないものばかりだったので、ここではそのへんの知識をきちんとフォローして紹介していこうと思います。

八卦山は台湾鉄道彰化駅の東側にあります。八卦山の入り口から大仏へ向かう道をそれて公園路を登っていくと、南天宮の門があります。

ここはあくまで宗教施設であり、十八地獄もただのお化け屋敷のたぐいではないことはわきまえておくべきでしょう。

主祭神は東嶽大帝。東嶽大帝は泰山の王で、死後の世界を支配する神様です。日本で地獄の王と認識されている閻魔大王も道教においては東嶽大帝の配下に過ぎません。十八地獄は、東嶽大帝の配下である十殿閻羅それぞれが管轄する地獄を描き出すものです。

なぜか天界神の中壇元帥が祀られています。単に人気者なのでまったく関係がない神様のところにも呼ばれがちです。

十八地獄は東嶽大帝の祭壇の横から始まります。まずは第一殿・秦広王。秦広王は日本でいう閻魔大王の役割を果たし、死者の中から生前罪があった者を地獄に送る係をしています。

ここでは婦女の道を守らなかった者、通貨を偽造した者、私利私欲のために争いを起こした者などが罰を受けます。

第二殿は楚江王。楚江王は小地獄を司り、生前不忠不義だった者が心臓や目をえぐられたりします。エロ本見てたやつも目を掘られるとあるので大抵の男はもうダメです。

これ以降を見たいときは、階段前で50NT$を支払い2階に行きます。

2階にはこんな入口。多分子供なら怖がるでしょう。

第三殿は宋帝王。黒縄地獄を司ります。ここでは汚職をした官吏が手足の爪をはがされたり、

墓を荒らした者がこうやって心臓をえぐられたりします。どうみても腹えぐってますが説明書きには心臓と書いてあります。ちなみに人が入るとセンサーが働いて人形たちが動き出します。

第四殿は五官王。毒を売った者、山に放火した者、自分の利益のために人を傷つけた者などが炮烙の刑に処されます。炮烙の刑は熱した銅の柱を抱かせるというもの。殷の紂王が行ったともされますが、それは周のプロパガンダです。

第五殿は森羅王。閻羅王のことで、日本でいう閻魔大王です。元はインド神話における死者の王ヤマ。それが仏教経由で中国に伝わり台湾にも伝播しました。もとは第一殿を担当していたけれど、優しすぎてみんな天国に送ってしまうので第五殿にまわされたなんていう話もあります。ダフ屋、詐欺、強姦殺人などを行った者が腹を割かれはらわたを引きずり出されます。

第六殿は卞城王。親不孝者、他人を賭け事に誘った者、物価を高くした者、刃物で人を殺した者などが体を刀で刻まれます。

第七殿は泰山王。東嶽大帝のアバター的な存在です。姦通して相手のダンナさんを殺した者、友達の奥さんを強姦した者は「大斗量入小斗量出」となっています。意味がよくわからないのですが、調べたら重税を課されるみたいな意味のようです。想像するに犯した罪よりも重い刑を課されるようなことかもしれません。

第八殿は都市王。殺人教唆を行った者が熱した油に頭つっこまれたり、いつも文句ばっかり言ってるやつがノコギリでぎこぎこされたりします。

第九殿は平等王。

人をそそのかして争わせると舌を抜かれます。日本で嘘をつくと地獄で舌を抜かれると言われているのはこれが伝わって日本ならではの適当改変が加わったせいかもしれません。

最後の第十殿は転輪王。ここまで刑罰を受けてきた死者を、その罪に応じた生き物に転生させます。兄弟が不和だった者、好色の者は獣に転生させられます。

十八地獄が終わり、外に出ると裁判を行う酆都大帝の様子。酆都大帝は元は東嶽大帝とは別系統の信仰での死者の国の王でした。それが道教の中に取り入れられ、東嶽大帝の副官だという設定になりました。ただ、逆に酆都大帝を奉じる信仰では、東嶽大帝が下に置かれていたりするようです。

外にある階段で3階に登ると、そこもまた廟になっています。

この神様はどなたかと目をこらすと、斉天大聖。つまり孫悟空。

こっちの中壇元帥は、悟空と争ったり協力したりしているので関係あります。親子で戦ってかなわなかったのだから、下に置かれるのはしかたないですね。

しかし、斉天大聖よりずっと偉いはずの玄天上帝が配神になっているのは納得いかないです。

4階に行くと魔界怪譚。

最初の物語は「目連救母」です。これは『盂蘭盆経』という経典に記される物語で、お釈迦様の十大弟子である目連尊者=モッガラーナ尊者が、母親が餓鬼道に落ちているのを知り、供養を行って母親を餓鬼道から救うというもの。ちなみにそこから生まれたのが盂蘭盆会、つまり日本でいうお盆です。でまあ、『盂蘭盆経』というのは中国で仏教布教のために儒教的な孝の思想を取り入れてでっちあげられた偽経で、日本人はいまだにそれを真に受けてお盆とか言っているわけです。

地獄の獄卒に引き立てられてくる目連尊者の母親。

それを迎え、供養を行う目連尊者。実際のモッガラーナ尊者はインドの人ですからこんな三蔵法師みたいな姿のはずはないですけど。

最後にお母さんは観音菩薩の慈悲により昇天します。

魔界怪譚の中はこうしたいろんな故事が元になった情景が描かれていています。

こんな感じで驚かせてくるのでお化け屋敷的な側面があるのも確かです。とはいえ上述の通り遊園地のアトラクションと同列に扱うものでもありません。

最後は李世民の地獄めぐり。『西遊記』にある龍に呪われた李世民が地獄に落ちて、十殿閻羅に事情を話し、生き返らせてもらうというエピソードが再現されるはずなのでしょうけれど、壊れているのか待てど暮らせど李世民が出てきませんでした。

こういうのは知識がある大人が子供をつれていって、悪いことをするとこんな恐いことになるんだよと脅すために利用すべきものだと思うので、そういう基礎知識がない人が行ってもおもしろくないと思います。

同じ4階には、玄天上帝のお祭りの様子や西遊記のシーンなどを再現したものがいくつかあります。