先嗇宮

数百どころか数千あるであろう台湾の廟の中で、私が訪れたのはわずか100箇所程度に過ぎませんが、その中で一番すばらしいと思った廟はどこかと問われれば、この廟を挙げます。

先嗇宮の創建は1755年。当時新荘に建てられ名称は「五穀王廟」でした。その後2度の移転を経て現在の新北市三重区に移り、日本時代に「先嗇宮」と改称したそうです。

新北市三重区は台北と川を挟んで隣接しています。街の雰囲気は日本の北関東の農業地域といった感じ。周囲に高いビルが見えないというのは台北ではありえないことです。

飼われているのか野良犬かはわかりませんが、安心しきった顔で寝ているのできっと優しくしてもらっているのでしょう。

元々が「五穀王廟」だったことからわかるように、主祭神は神農です。「先嗇」というのは古代の帝王が祀っていた八蜡神の一柱で、神農と同一視されています。

後殿3階の中央も神農。

神農は様々な草を食べて毒と薬を確かめたということで、医薬の神様であり、また人間に農業を伝えた農業神でもあります。

先嗇宮の後殿には、他の廟ではあまり見られない神話の神々が祀られています。まず神農の右隣は九天玄女。黄帝が蚩尤と戦った時に兵法を授けた女神です。

天地開闢の神・盤古。道教では元始天王とも呼ばれ、元始天尊と混同されることもあります。

後殿2階の中央は黄帝。黄帝が祀られている廟というと、私は他には台北の黄帝神宮しか行ったことがありません。

黄帝の右には伏羲。伏羲は先天八卦を定め、漁業や狩猟、家畜の飼育、製鉄などを発明して人間に伝えたとされる神様です。

神農や伏羲は、自分たちが持っている文化が誰か偉大な神様によってもたらされたと想像した人々によって作られた存在かもしれません。

この並びでなぜか太上老君。老子は神格化されすぎて、今では老子のほうが太上老君の化身であるような扱いをされることもあります。

後殿1階にも神農。

そしてさらに後殿前の広場にも神農と、あとは盤古と保生大帝です。はだかのおっさん二人と並べられた保生大帝がちょっと気の毒な感じです。

ゆるキャラもいました。神農が黒いのって毒をたくさん食べすぎたせいなんですが、こんなジャングル黒べえみたいなキャラにしちゃうのはどうなんでしょうか?

神農だらけの廟ですが、左右の副殿には他に道教や民間信仰の神々も祀られています。

昭和二年の奉納品。

見えにくいですが延平郡王。つまり鄭成功です。台湾では鄭成功についてはオランダ人を追い出した英雄という見方をする人もいれば、台湾を占領統治した外来政権の一つにすぎないと見る人もいます。

虎ちゃん。普通はテーブルの下に押し込められていることが多い虎ちゃんもここではテーブルの上に乗せられています。

天上聖母も九天玄女がいるところでは脇に追いやられるようです。

狛狗と犬。まあ狛狗なんて言い方するのは日本だけで、獅子なんですけど。

ちなみに夏の抜けるような青空を思わせる空ですけど1月1日です。でも暑かったのでTシャツ1枚で歩きまわってました。

これは先嗇宮駅近くのセブンイレブンのイートインスペース。元が薬屋さんだったということではなく、先嗇宮駅周辺は街ぐるみで神農の街・医薬の街であることをアピールしているようで、道路にも生薬が描かれたタイルなんかがありました。