大龍峒保安宮

保安宮正殿

保安宮は台北では2番めに古い1742年創建で、艋舺龍山寺、艋舺清水巖祖師廟とともに「台北の三大廟門」に数えられます。大龍峒は艋舺に次いで開かれた地区であり、保安宮はその中心でした。

保安宮天公炉

保安宮の天公炉は哈密街に面しており、最初は道路建設のために南北の敷地が分断されたのかと思っていましたが、そういうわけでもないようです。

保安宮の東方向には松山空港があります。上空が着陸ルートに近いため、お参りしていると何度も飛行機が降りてきます。

廟内の至る所に大正7年と書いてある窓枠があります。これは大正7年の大改修時に奉納されたもの。

保安宮、保生大帝

主祭神は保生大帝です。保生大帝は北宋代に実在した医師・吳夲という名医です。吳夲医師にはまた、道士に真伝を授けられて羽化登仙したという伝説もあって、宋朝から「大道真人」という号を賜っています。その後神格化されて保生大帝という神様として信仰されるようになりました。

時の皇后(伝承によっては皇太后とも)が病気になったときに名医と評判が高かった吳夲が召し出されたことがありました。皇帝は吳夲の能力を疑い、まず糸を玉の飾りにつないで脈をとらせたところ即座に人ではないと見抜きました。次に猫につないだところこれも見抜きました。そこで吳夲の能力を信じた皇帝は、皇后の手首に糸をつないだところ、今度は見事病気を見抜き、治療したという伝説があります。

これは中医学の脉診というものを根本的に理解していない人物が作り上げた伝説に過ぎません。ところがこの伝説は日本に伝わりパクられて「おえんさまの糸脈」という話が作られました。

正殿に掲げられた扁額「真人が居る所」。呉真人がここにおわすということです。


正殿の左右には「三十六位天将(三十六官将)」が祀られています。三十六位天将はもともとは玄天上帝の配下の将軍たちです。玄天上帝が魔物を征伐するときに、保生大帝が玉皇大帝より賜った宝剣を借りる代わりにそのカタとして三十六位天将をあずけていったという話があるために(他に玄天上帝がふんずけている亀と蛇をつかまえるためという話も)、保生大帝が祀られる廟には三十六天将も列座しています。

つまり保生大帝の信仰においては玄天上帝は宝剣を借りパク状態にしているということになります。

虎牢関三戦呂布

正殿の周囲外壁にはいくつかの壁画があります。まずこれは三国志演義の一シーン「虎牢関三戦呂布」。呂布と劉備・関羽・張飛の三兄弟が戦う場面が描かれています。

以前田中芳樹という作家が、自分が三国志が嫌いだからと、中国では三国志はマイナーであるなどというデマを流したことがありますが、中国でも台湾でも三国志演義はメジャータイトルです。

朱仙鎮八槌大戦陸文龍

続いて「朱仙鎮八槌大戦陸文龍」。開封の南、朱仙鎮において、金の武将・陸文龍が、岳飛麾下の四将と戦うシーンです。八槌というのは四将がそれぞれ両手に持つ槌という武器のことです。

花木蘭代父従軍

こちらは花木蘭が父親にかわって男装し、突厥との戦いに出征するというシーンです。

八仙大閙東海

これは「八仙大閙東海」。小説『東遊記』の八仙が東海で妖怪と戦うシーンです。何仙姑や李鉄拐は傍観しているようですが。

鍾馗姉妹回娘家

「鍾馗迎妹回娘家」は、鍾馗がまだ人間であったときに親友に妹を嫁がせることになっていたものの、死んでしまってそれがまだかなっていないため、一時的にこの世に戻って妹を嫁がせるというエピソードを描いたもの。

韓信跨下受辱

これは説明するまでもなく韓信の股くぐりのシーンです。

さて、後殿には様々な神様が祀られます。

神農大帝

まず、医神・保生大帝の後殿ということで中央は神農。逆に神農廟に保生大帝が祀られているというパターンもあります。

玄天上帝も三十六位天将をあずけっぱなしのまま後殿に祀られています。

孔子

こちらは孔聖夫子。つまり孔丘です。道教の廟に孔丘が祀られていることはそれほど珍しくはありません。ただ、一般的には「至聖先師」という神名で祀られることが多いので、「孔聖夫子」名義で祀られるのは珍しいと言えます。

道教、儒教、中国仏教は、それぞれ「三教合一」を謳いながらも自分たちを上に置くということをしています。特に道教ではもともとの道教神、民間信仰の神、儒教の神、仏教の仏菩薩などを節操なく取り入れてきています。台湾の廟ではたいてい見かける文昌帝君などはもともとは儒教寄りの神様です。

後殿のさらに裏側には、戦後建てられた後院があります。

後院の3階は諸仏が祀られる大雄寶殿。

4階には、道教諸神の中でも特に偉い神様が祀られています。まずは玉皇大帝。

そして金母娘娘、つまり西王母。

さらに雷神の総元締め九天応元雷声普化天尊。スーパーロボット大戦αでは、高橋美佳子さんが九天応・元雷声・普化天尊という切り方で読んでいますが、正しくは九天応元・雷声普化天尊です。『封神演義』では、聞仲が九天応元雷声普化天尊に封じられました。

保安宮の南にある公園は保安宮が所有しているようですが、隣に孔子廟があるということで「隣聖苑」と名付けられています。

隣聖苑の池。園内にはちょっとチープな人形が並べられたジオラマがいくつかあります。

これは呉真人が虎ちゃんを治療してあげるシーン。ある虎が人間の女性を食べたところ、かんざしが喉に刺さってしまったので、呉真人がもう人間を食べちゃいけませんよと諭してかんざしを抜いてあげたというお話があります。

大龍峒保安宮は、MRT淡水線の圓山駅から西に歩いて10分ぐらいのところにあります。