新竹東寧宮

新竹駅から都城隍の夜市に行くには駅前の中正路を北上し、東門圓環を西側に回って東門街をまっすぐ行けばわかりやすいです。東寧宮はその途中にあります。

この廟の別名は東嶽廟。主祭神は東嶽大帝です。東嶽大帝の別名は泰山府君。仏教が伝来する以前の古代中国の一部には、死者は泰山へ行くという信仰がありました。一部と書いたのは、「中国には」と書くとまるで中国全体でそういう思想があったように勘違いする人がいるからです。日本人は国ごとに統一された思想や死生観があると考えがちですが、もちろんそんなことがあるはずがありません。

さてその泰山を統べる神として設定されたのが泰山府君であり、仏教の伝来によって地獄の概念と、地獄を統べる閻魔が知られるようになると、そちらの設定と統合する形で中国的な地獄と、地獄の裁判官である十殿閻羅が考え出されました。そして、泰山府君と閻魔も十殿閻羅に組み込まれます。

で、これが東嶽大帝。『封神演義』的には黄飛虎が封じられた神様です。泰山府君は安倍晴明が信仰した神としても知られていて、安倍晴明が泰山府君を祭って死者を蘇らせたなんてお話も作られていますが、ただの宮廷占い師の陰陽師にそんなことができるはずがないし、そもそも泰山府君は冥府を統べる神であって、死んだ人間を生き返らせるなんて力はありません。作り話にしても設定盛りすぎです。

こちらは地蔵王菩薩。地蔵王菩薩は閻魔王と同一の神格であるという設定もあります。ただ、この廟に東嶽大帝と地蔵王菩薩が祀られているのは、十殿閻羅つながりではありません。

こちらは神農大帝。神農は医神・農業神であり、地獄とは関係ありません。

実は東寧宮は、もともと新竹にあった新竹嶽帝行宮、新竹地藏庵、新竹五穀廟が合併した廟です。日本時代に、地藏庵と五穀廟が総督府の都合で破壊され、武道場やら学校やらにされてしまったために、嶽帝行宮に合併。しかし、戦争が始まって皇民化運動が台湾でも強制されるようになると、嶽帝行宮まで壊され、神像は他の寺などに移されてしまいました。

戦後に有志が資金を募り、再建されたのが現在の東寧宮です。

後殿にも地蔵王菩薩と東嶽大帝。

十殿閻羅も祀られます。

こちらは虚空地母至尊。三清に仕える四御の一柱である地母神です。土を司る神様であるゆえ、墓所の守護神でもあります。

そして軽くおどろいたのがこちらの太歳星君のプレート。私が台湾にいた丙申年の太歳神は管仲でした。通常は干支と名前のところは入れ替えができるようになっていて、年ごとに入れ替えるようになっています。しかし、これは干支も神名もプリントされています。ということは、干支に対応する60柱分のプレートがあるということなので、ちょっとびっくりです。